認知症病棟とは
生活機能回復訓練
治療方針
嚥下困難への対応

十数年前、当院では嚥下障害がなく食欲のみが低下した患者さんに対して食べ物の認識と食欲増進を目的とした「嗜好食」という食種を設け対応をしました。

一方で嚥下障害のため、「粥・軟菜食」を摂取できない患者さんに対して「嗜好食」のゼリー、ババロア、ムースなどを提供すると、意外にスムーズに食べられました。

そこで、嚥下機能障害に対して、「嗜好食」を用いた食事訓練の提案がなされ、先行の施設の情報を取り入れながら、「訓練マニュアル」が作成され嚥下訓練が始められました。

嚥下食の調理には、特に細かい配慮が要求されます。脳血管障害による仮性球麻痺では「とろみがあって、ゼラチンを使用したものが最も飲み込みやすい」という事は、よく知られるところです。

但し、症状により嚥下可能な形態は異なりますし例外も多く存在します。また、精神疾患・認知症であるが故に一般論が最適でない場合もあります。増粘剤の割合や、計量、溶解法、ゼラチンの割合、温度管理、ベッドサイドまでの粘性の変化、嚥下を誘発しやすい食品の選択など、考慮する点は限りがありません。

ゼリー剤や増粘剤等は、日々開発が進み、当院でもそれらを取り入れながら、日々献立の改良、マニュアル化を進めています。摂食・嚥下障害は、非常に難しい分野ですがその重要性は益々高まっています。

三和中央病院 栄養管理室 梅田富美子(管理栄養士)

嚥下困難対応食の実際
嚥下困難対応食はゼリー、ババロア、プリン、ペーストの4つの形態からなり、さらに毎回の食事形態がほぼ同じになるようにしています。
温度と味付けの工夫。これが認知症患者さんへの対処の特徴のひとつです。
通常、冷たく、味の濃いものほど嚥下反射の誘発を起こしやすいといわれていますが、高齢の患者さんにとっては、低体温への影響や嗜好の面から、温かさを保ったものや、味にも幅をもたせる工夫が必要となります。
1食の量は1200cc程度としています。それ以上は食事時間が延長します。
30分以上の食事は患者さんの疲労度がアップするためです。サプリメントを使って栄養の充足を図っています。


レシピと調理の工夫
レシピと調理の工夫です。
嚥下食提供には調理師さんにもとても協力を頂いております。
メニューはすべてオリジナル。時間と手間をかけています。サプリメントの利用。新しい増粘剤の使用です。
嚥下食の中で最も顕著な改善が全粥の提供です。全粥は粒を誤嚥しやすいため、以前はミキサーにかけて提供していました。ところが、お粥をミキサーにかけますと、米が糊状に糊化しべたべたになり誤嚥しやすくなります。
多くの手間と時はかかりますが、お粥をゼリーにする工夫を致しました。このゼリーは粥を炊き、粗ミキサーにかけ、ゼリー液を作り、冷やし固め、温めて提供をしています。


嚥下困難対応食メニュー例

粥ゼリー。オレンジは人参。そのほかに南瓜やさつま芋の裏ごし、ほうれん草の粥もおだししております。
おかずのゼリーも粥ゼリー同様に作り、温めてお出ししています。添えていますのは温泉卵です。そのままでは軟らかすぎますので おかずゼリーにからめて食べていただきます。

魚料理は、一度唐揚げにして、香ばしさと脂肪を含ませ、風味をつけ、衣をはがし、だしと調味液を加えてミキサーにかけ増粘剤でまとめ、人参あんをかけています。

オレンジはVクレスムース。一品で1日に必要なミネラル・ビタミンの1/3が摂取出来るようにしてあります。
ハンバーグと野菜の盛り合わせ。粥ゼリーです。温かいゼリーは当院のオリジナルメニューです 。