対談『心理職の果たす役割と看護との連携』
投稿日時: 2019-08-23

今年度より、心理療法室の森室長が、長崎県臨床心理士会の会長に就任されました。その一方で、これまで日本精神科看護協会長崎県支部を牽引されていた尾上看護部長が支部長職を退かれます。

そこで今回は、お二人に『心理職の果たす役割と看護との連携』として対談していただきました。



〜1. 精神科病院で心理職が必要とされること〜

尾上 私は看護師免許取得後から精神科病院に数十年(当事は三和病院)、臨床の場で従事しておりました。その当時精神科病院に心理職の方が配属されることは少なかったが、当院では院長の方針により心理職の方が非常勤で勤務されていました。

心理職の大きな役目の1つとしては精神科医師の補助や手助けを担っているということです。医師も一人で患者を数十人と担当していくため、患者様の心理面を詳細に診察することは困難でした。そこで心理職が面接や心理検査を詳細に行っていくことで医師の負担を軽減していました。

そしてもう1つ、これは私が臨床の現場で実体験になりますが…当時私はアルコール依存症の病棟に配属となり、患者様の性格や病態を手探りで対応している状態でした。不明な点や対処法を医師に問うも、忙しくてつかまらないことがほとんどでした。精神科病院は医療法による人員配置では「医師数は患者48人に対し1人」と定めてあり、1日で数名を診察するだけでも手一杯の状況でした。当然、患者様も入院治療の不安、不満などの訴えが多くなり、その結果看護やコメディカルも多忙を極めていました。そんな中、心理職の方が患者様と面接をされて、その内容から「この患者様は過去にこういう辛い経験をされているから触れない方がいい」「こういう部分は話を聞いた方が良い」など、患者様に合わせた関わり方や対応ポイントを週1回の病棟ミーティングの中でスタッフへ提供していただき、そしてスタッフもミーティングの中で陰性感情等、対応した結果を共有、フィードバックすることで患者様とも良い関わり方を築くことが出来、非常に助かったことを良く覚えています。また看護師としての自己の看護観(気づき・振り返り)等、非常に勉強になり、今の自分があるのだと思っています。

全体として見ても心理職の存在は大きく、患者様が主治医に話しづらいことも心理職には話していただけるケースが多い。また主治医を中心とした医療チームの中で看護師やリハビリ部など各職種の強みを生かせるような言葉かけをいただき、医療チームとしての自信にも繋がっています。

>> 患者様と心理職間だけでなく、医師や看護師、他職種が上手く連携するための橋渡しのような存在なのですね。

尾上 現在、統括的な立場になってからの関わりとしては、看護部の師長・副師長勉強会に心理職も参加していただき、患者様との関わり方についてポイント的なアドバイスを頂いています。

また現代社会における一般的な重要課題として職場内での人間関係やストレスの問題があります。看護の離職の理由で第1位は人間関係です。やはり日ごろの関係づくりは大事だと思いますし、一般職員はもちろん指導者にあたる師長・副師長にも当然ストレスがかかるものだと考えています。そこで心理職に師長・副師長勉強会に参加していただき、働く側のメンタルもケアして頂ければと考えています。私自身も勉強になっております。

最近は一般科の看護部長さんも倫理、対人関係、メンタルヘルスについては課題であると、精神科病院での心理職との協働は高い評価をいただいています。

>> 尾上看護部長ありがとうございます。
森先生、心理職としてはいかがでしょうか。


 まず尾上看護部長からお話を受けてですが・・・非常にありがたいお話で恐縮です(笑)。

尾上 いえいえ、決して褒め上げなければならないというわけではなく(笑)。私はそうしたところで大変お世話になり、また院内の中で困った時に頼れるところを考えると…やはり心理職が身近にいらっしゃり、患者様へのフォローについてはもちろん、職場内の業務の流れや人間関係についても意見を頂くことが多かった、そうした事実をお話ししたにすぎません。

 ありがとうございます。
今までの話でいうと、心理職の役割が見えてくるところがあって、患者様の理解をどのようにすればいいか、そして理解をどのように支援につなげるのか、その2つなのかなと思います。

特に前半の話ですと心理検査や面接をする中でどんなふうに感じたか、この患者様はこういう性格があるんじゃないか、患者様の性格をどのように理解し支援に応用していくかだと思います。

後半の話では医療チームの状況をどのように理解して人間関係とかそれぞれの立場を理解して患者様の治療に上手く活かすためにはどのような動きをすればいいか理解と支援に繋げるという役割だと聞いていて思いました。

尾上 そうですね。やはり理論的なところや交通整理的なところをしていただいていると感じています。

例えば何かトラブルがあった時「何かしなきゃいけない」という思いが先行し、何もしていない自分への焦りから自分を責めたり自己嫌悪に陥りがちですが、そうした時に心理職から「今はいいんですよ。」「今は待つしかないんですよ。」ということを理論的にアドバイスいただき助かったところもありました。また特定の看護師の患者様への対応について相談された際も詳細を聞いたうえで「そういう方も居て良いんですよ」と共感するアドバイスをくださったこともありました。

 今のお話が精神科の特徴であると思います。
精神科というのは他科に比べると患者様の病気とか症状とかコントロールしにくいですよね。外科や内科のようにはいかず、どうしても病気や症状が根強いところがあり、こちらもなかなかうまくいかない感じや、長く付き合っていかなきゃいけないしんどさが精神科にはありますよね。そういうスタッフ同士でのしんどさや患者様がなかなか良くならない、これでいいのかという、病気に対してのコントロール度の低さから「今はこれでいいんだろうか」と迷いを生むところがあります。

尾上 明確に良くなるというのはなかなか難しく、内科や外科のように「良くなりました」と明確に診断できればいいが、精神科はいつ治るかいつ落ち着くかも分からない。医学的に言うと治癒ではなく「寛解」の状態になる。そうなると看護師やその他スタッフも患者様と長い付き合いとなりそれに伴った対応が求められる。精神科の看護師は他の科よりも“看る”力が強く求められていると思います。

よく他科の看護師から「精神科の患者様はどんな対応をしたら落ち着く(治る)と?」と聞かれますが「いや、落ち着かんでしょ(笑)」とよく言っています(笑)「あんた達いい加減ね(笑)患者様のこと真剣に考えとっと?」と聞かれますが、それは如何に息の長い付き合い方をしていくかが、大事だとお答えしています。

 「寛解」なんですよね、「治癒」とは違って。
寛解というのは治療を受けながらその状態をキープしていくということですから、慢性疾患ですよね。私も高血圧の薬を飲んでいますが、精神科の治療も同じようなことが言えます。どうしてもスパッといかないのが精神科なのだと思います。ではなぜ心理職が役に立つかですが、心理職の関わりは「治す」とは微妙に違うところがあって、その患者様が持っているものをどうにか「活かす」ように関わっていくことだと思います。

尾上 先生は個別的にアドバイスされる際、直接アドバイスされるのか、そのように仕向けて行くのかどちらでしょうか。

 それは患者様がどういったタイプかに依ります。
患者様が病気や現在の状況についてどのように感じているか、どういう理解をしているか、それによってこちらの働きかけも違ってきます。

例えばアルコールのインテークであればどちらかと言うとARPに乗っかってもらうような形で橋渡しをしますし、外来の心理療法や面接であれば具体的な目標を共有して進んで行きます。でもやはり患者様がどのように理解しているかとか、どこまで準備が出来ているかによって、こちらが何を提供するかの準備次第ですね。やりとりを重ねていくと準備がだんだんできたりします。

尾上 看護部においても、依存症や統合失調症といった患者様の病状に応じて、薬物療法を促したり、落ち着いて来たら作業療法を促したりと橋渡しをよく行っています。
そうしたものがあることをまず理解することが大事ですし、それに伴う他部署との連携(人間関係作り・コミュ二ケーション能力)も大事だと思います。
「患者さんも何も言わないし、どこからも話が無かったので黙っていました」などではなく、患者様と24時間近くにいる看護師がある程度タイミングを計り他部署と連携できるような立ち回りが大事だと思います。その結果、患者さん、家族よりあなたが(看護師)、他の部署へ橋渡し(助言)をしてくれたお蔭で症状が安定しました。社会復帰ができ良かったですと感謝の言葉をいただくケースもありました。

 連携についてですが、看護部は24時間病棟に居るので患者様の情報も集まりやすいです。心理職としても患者様からのサインを受け取れるように朝の申し送りに定期的に参加させてもらっています。参加することで患者様の状況を詳しく聞くこともできますし、心理面接や心理検査もタイムリーに行うことができます。主治医からオーダーのあった心理検査の中には、急ぐ検査と急がない検査がありますので、患者様の状態と検査を行うべきタイミングの細かいニュアンスを理解するためにも朝の申し送りに参加しています。

尾上 私がいつも感じているのが、患者様について関心を持つことが大事だということです。患者様に関心がなければ専門職に入ってもらおうとは思わないでしょう。また自分の力だけで看護することは不可能ですから多職種で構成されたチーム医療が不可欠であり、そのチーム医療の中で自分が感じたことを話し一緒に考えること(共有)が一番の効果が出ることだと思います。一人で考えるとどうしても視野の狭い対応になりがちです。それであれば少しでもいい情報が貰えないかと他職種とお互いに情報提供し合うことが大事ですね。話し合う時はそのテーマに没頭するものですから、普段気が合わない職員こそ違う視点で考えているので、意外といい意見を持っていたりするものですよ。心理の先生からも「何でもやさしく大切に」ではなく、「この人は成長の中でこの経験は必要ですから、こうフォローした方がいい」といったアドバイスを受けた場面もありました。

〜2. 心理職とは〜

 心理職の関わりにつながりますが、心理職のあり方には2つの方向性があると思います。

1つは、「人間全般の行動の法則を把握して、それを支援に活かす」方向。元々、心理学というのは人間の行動に関する法則を見出す学問なのです。それを支援を必要としている人たちやその関係者のために活かすわけです。

もう1つは一人ひとりがどのような人間でどういう世界に生きているのかを事細かに理解して、それを支援につなげていく方向。これは、臨床心理学や臨床心理士が重視してきたあり方です。

つまり、支援のあり方には全般的な方向と個別の方向の2種類があると思います。
臨床心理士という資格、これは一人ひとりを大事にしましょうという方向性を持った民間資格です。それとは対照的に今度出来た公認心理師は国家資格です。国家資格ということは国民全体の役に立たなければいけないという側面があります。公認心理師は、「国民の心の健康の保持増進」という、先ほどの職場のメンタルヘルスとつながるような、広く国民全体に情報・知識を提供することも求められています。
今まで心理職が活躍していた領域よりも、もっと広い分野で活躍する必要があります。

尾上 社会貢献を求められているのですね。

 そうですね。今まであまり出来ていなかった部分なので大事かなと。

尾上 五大疾病の中に精神科領域が入りましたから、そうした意味でも心理職の役割(関わり)というのは今後大きくなると思われます。

 臨床心理士には保健・医療領域に勤めている人が3分の1、スクールカウンセラーなど教育領域に勤めている人が3分の1、学校であればやはり不登校やいじめに関する対応が主になります。他の3分の1は、児童相談所などの福祉領域、大学などの研究機関、企業など産業領域、家庭裁判所などの司法領域、私設心理相談などです。

尾上 不登校やいじめにあった生徒の体験や感情がその後なんらかの症状として出現し、心療内科クリニックや病院にかかるケースがあるので、そこを予防していくわけですね。

心理職は今後様々な領域に関わることが期待されています。
特に高齢者の分野には社会のニーズがあると、私は感じています。

 私もそう思います。最近では、地域包括支援センターから声を掛けてもらうことがあります。
地域で見ると精神疾患の老人あるいはご家族が精神疾患を患っている方は必ずと言っていいほどいらっしゃいますし、そうした方々を理解したいというものです。
精神科で学んできたことが地域の役に立っていると実感しています。

尾上 三和中央病院としても医療社会福祉部の久保田課長や精神科認定看護師の原田副師長が地域包括ケアシステム関連の会議・研修会等に参加されています。やはり各専門の立場から関わっていかれるのは大事ですので心理師の方にも積極的に参加していただいて、地域に貢献して頂ければと思います。
2025〜7年くらいまでは高齢の方が増えて行きますから、そうした活動に今後も需要が高まると思います。

 これまでの心理職は、大体が子どもを相手にする事が多かったです。しかし近年は地域包括ケアシステムの一環として高齢の方に関わることが求められてきています。
こうした世の中のニーズの変化に心理職も対応の幅を広げていく必要があると感じています。

〜3. 専門職としての心得〜
 
尾上 医療は日進月歩であり、看護師は専門職でもありますので日々成長していく必要があります。
自分のスキルを磨くためにも自己啓発として職能団体に入り、病院という小さな組織からもっとマクロ的な世界を見ていくことが大事です。
自己啓発には時間や金銭の投資がつきものですが、それは経験となって必ず還元されます。様々な人と出会い、その中で自分の中のモデルとなる人を見つけることが出来ます。また専門職としてだけでなく人間として成長できるし、成長している人を見ることができます。
どの専門職でも同じですが、自己啓発がなければ自分の成長はないし企業も発展していきません。専門職であるならば職能団体に所属して知識・経験を積んでいくことが大事です。
私はよく「知識と経験を踏まなければ不安になる」と言っています。経験を踏んでおけばその時その時は上手くいかないかもしれないが、あるところまでなると感覚的な判断で分かるようになっていきます。また歳をとってから経験することは恥ずかしくてできないし、引っ込み思案になり、知識がなくて不安にもなります。
特に私たち看護師は取り返しのつかない命が関わる職業です。将来不安にならないためにも若い時からコツコツと知識を得ながら経験を積み重ねることが自分の力になっていくので、ぜひ職能団体に所属して頂きたいと思っています。

>> 尾上看護部長、ありがとうございます。
命という取り返しのつかないものが関わる環境の中で判断を求められる看護師だからこそ、若いころから職能団体に所属し様々な経験を積み重ねていくことが大事ということですね。
森先生はいかがでしょうか。


 私は今の話を聞いていて、ずいぶん違うなと思ったのが・・・人数です(笑)
心理職で多いのが一人職場です。看護であれば十何人と居るので先輩がいて見て学んだりすることができますが、一人なので「これが合っているのか」ということすら分かりません(笑)
そこで「これでいいんだ」と思ってしまうと独りよがりになってしまい、それは絶対患者様や支援を受ける人の役に立たないですね。ですので研修を受けることは大事ですね。卒業したての頃は特にいろんな方と関わった方が勉強になりますので、私も職能団体に所属することをお勧めします。
特に若い時に一緒だった方は今でも付き合いがありますし、ネットワークが全国に広がります。その点が一番大きいと思います。また、臨床心理士は5年更新の資格です。その間に、必要な研修を受けないと更新できず、臨床心理士でいられなくなります。これが臨床心理士の特徴だと思います。

尾上 やはり複数で関わりあうことで刺激になるし、お互い感じるところがあると切磋琢磨し分かち合えます。また辛い時にはお互い慰めあうことも出来ますしね(笑)やはりそういう仲間は大事だと思います。

〜4. 今後の展望〜
 
尾上 世の中の大きな流れでいくつか問題を抱えていて、働き方改革、看護も離職防止や人員の確保が大事になっています。また医療の全体の動きとして第7次医療計画が厚労省から出ております。その一つに各病院は専門とする分野(統合失調症、うつ病、パーソナリティ、認知症、薬物依存、ギャンブルなど)を看板として掲げていく。そして、患者様が病院を選んでいく形になっていきます。

それに伴い医師はもちろん、コメディカルはより専門性の高い技術が求められようとしています。
私の展望としてはコメディカルとしての知識・技術・経験を今のうちに積み重ねて欲しいと思っています。そして三和中央病院が患者様に選ばれるようにチーム一丸となって頑張ってもらえたらと思っています。もちろんこれは看護だけに限った話ではありません。リハや栄養、もちろん事務職の方も専門性はあります。そして最終的にはどこかで患者様と繋がっています。つまりみんなで患者様を看ているのです。患者様を良くしたいという考えが統一できれば、1つのチームとして部署間の連携も上手くいき、病院も発展していくと考えています。

>> ありがとうございました。
最後に森先生お願いいたします。

 先ほど尾上看護部長からチームという言葉がありましたが、心理職はこれからそのチームに入れてもらうような段階なので、チームに入ってどれだけ貢献できるかというのは今からだと思います。
今までの臨床心理士の民間資格に加えて新たに公認心理師という国家資格ができました。
そんな心理職がチームとしてどんなふうに役に立つかですが、まず何にしても常勤の人が少なく、非常勤の方が多いというのが実情です。そのためまずは臨床の場の安定がまず大事かなと思っています。そして国家資格になったことでいろんな分野で活躍して国民に還元していければと思っています。

尾上 そのためにはまず組織づくりが大事だと思います。必ず心理職の方が居なければならないなどの仕組みさえ作ってしまえば、最初は形だけでも入るでしょうし、まず認知度を高めることが必要だと思います。

 とりあえずメンバーに入れてもらうというのが大事ですね。まず、臨床の現場においては、心理検査や心理面接、集団心理療法などをとおして患者様やご家族、チームの他職種の役に立ちたいと思います。
また制度といいますか、診療報酬においては、さまざまな形で位置づけてもらえるように、これまで以上に全国の職能団体と連携して働きかけていきたいと思っています。
国家資格化を機に入れてもらって一定の役割を果たし、活動の場が広がり、心理職の地位の確立の役に立てればと思っています。

また長崎県臨床心理士会では、すでに県や市町のさまざまな審議会や委員会に委員を派遣して意見を述べさせていただいているのですが、そうした活動も今後活発になっていくと期待しています。

>> ありがとうございました。
本日は、お二人には貴重な時間をいただきありがとうございました。